射撃管制レーダーの照射って、どういうことなのか

射撃管制レーダーの照射という事態とは

最近、日本のメディアを賑わしている自衛隊から、
12月20日(木)午後3時頃、能登半島沖において、韓国海軍「クァンゲト・デワン」級駆逐艦から、海上自衛隊第4航空群所属P-1(厚木)が、火器管制レーダーを照射されたと発表があった。

いずも級護衛艦の空母化を決めたばかりの海上自衛隊にとってこのニュースは空母の必要性をアピールする善い材料になった。
日本の自衛隊の軍事力強化は主に中国軍へ向けたものだが、敵策源地攻撃能力の強化は、日本の北朝鮮への強硬な態度と考え合わせると、韓国にとっても脅威となりつつある。

日本近海での北朝鮮漁船への取り締まりは、日本にとっては北朝鮮への牽制でもある。そして、韓国海軍がこの漁船を少しでも保護することは、韓国にとっては朝鮮半島でのプレゼンスを主張する場でもある。

韓国にとっては、北朝鮮の核兵器は、統一後に自分のものになるので、どうしても取り除かないとならない脅威ではない。逆に、統一後は、大国である中国と直接国境を接することになるので、核兵器があれば、国境沿いの兵力分離などの交渉に役立つことは間違いない。
韓国にとって一番良い朝鮮半島統一のシナリオは、平和的に、経済面から統一し、北朝鮮人民軍と核兵器は温存すること、その際、北朝鮮の独裁政権がどうなるかについてはほぼ関心がない。北朝鮮の金政権が生き残ろうと殺害されようとどうでも良いのだ。どうでも良いが、彼らが北朝鮮の軍事を支配している以上、平和的に統一するには彼らの意向を尊重する必要があるのだ。だから、他国から見ると、戦争までした敵国におもねるように見えるのだ。本心のところ、北朝鮮と普通に貿易が出来るようになれば、金政権の存否に関わらず、実質的に北朝鮮を支配できると見ている。
だから、韓国にとって、同盟国の日本が北朝鮮に強硬な態度をとっていることは都合が悪いのだ。
そして、相次ぐ自衛隊の軍事力強化のニュース、徴用工賠償問題、日本近海での北朝鮮漁船の取り締まりなど見た韓国にすれば、軍事面で日本への圧力を示すことは当然だったかも知れない。その結果としての射撃管制レーダーの照射だったと思われる。

同様の事態は以前にもあった。
2013年1月、相手は中国海軍フリゲートで、海上自衛隊の護衛艦や哨戒ヘリへのレーダー照射であった。
この時も日本は強硬に抗議し、中国は通常の警戒レーダーで射撃管制レーダーの照射ではないと言い返している。
尖閣諸島を巡っての領有問題などで揉めていた状況と考え合わせると、今の、韓国とまったく一緒である。
韓国政府にはこれが先例になっていたと思われる。

射撃管制レーダーの照射というのが、
照射しただのしてないだの、射撃用だっただの警戒用だっただのと、
レーダーの種類も知らずに、必死に言い争う大国の政府首脳のなんと多いことか、

「ボーっと生きてんじゃねーよ」

とチコちゃんになら叱られるところだろう。


艦船のレーダーについて

ここで、一般的な駆逐艦(つまり、イージス艦ではない)の装備しているレーダー等のセンサーについて説明しておこう。
現用のたいていの駆逐艦には多種類のレーダーが装備されていて、主に、対空用、対艦用に分かれ、さらに、警戒用、射撃管制用(火器管制用ともいう)に分かれる。

艦船用レーダーの種類(大まか)

対象 用途 写真 特徴
対空(航空機) 警戒・捜索用 OPS-24B もっとも重要なレーダー、防御の要、大きい、常時回転している
射撃管制用 FCS-2 小さめ
対艦(艦船) 警戒・捜索用 OPS-28 マストの高いところにある、常時回転している
射撃管制用 FCS-2 火砲やミサイルなどをコントロールする
海上自衛隊むらさめ型護衛艦のマスト
海上自衛隊むらさめ型護衛艦のマスト

写真は海上自衛隊のむらさめ級護衛艦だが、最近の艦船の場合、普通の兵器は同一の射撃管制レーダー装置でコントロールするので、FCS-2が対空ミサイルや主砲などを全部管制している。今回の事件で問題になったレーダーに相当するのがFCS-2である。

対艦用のレーダーは、水面上の目標を探知するために、水平線より遠方の目標は見えない。昔の見張り員がマストの先に立つのと同じことで、出来るだけ高い位置から監視することで、少しでも水平線の先を見通そうとしているのだ。
逆に、高い位置を飛行している航空機に対しては、水平線は関係ないので、障害物がない限り低い位置でも良い。艦船を設計する場合には、いろいろな装置をごちゃごちゃ搭載しているので、結局アンテナはマストなどに装備するしかない。イージス艦は艦橋にデカい板状のアンテナを、死角を作らないように最優先で配置するために、上部艦橋そのものの形状設計がアンテナのための形に設計され、特殊な形態になっている。レーダーアンテナは、艦船の外に見える部分では最も重要な要素で、艦船の設計を大きく左右する。

最新のイージス艦になってしまうと、平面上のフェーズドアレイ・レーダーがすべての役割を1つでこなしてしまうので、見た目では警戒用と射撃管制用に分かれていないが、レーダー波の特徴は全く違うので、例えイージス艦のように射撃管制レーダーが無くても、射撃管制の為のレーダー波か警戒用のレーダー波かは判別できる。
マストにはそれら以外のアンテナやセンサーが沢山あるが、そのうちいくつかは相手のレーダー波を捕らえるためのアンテナである。上の写真では、ECM装置とあるのは全部対レーダーアンテナと考えてよい。このECM装置が相手のレーダー波を常に監視していて、もし射撃管制レーダー波を捕らえれば警報を出す仕組みになっている。
つまり、今回の事件で射撃管制レーダーの電波を捕らえたのはこのECM装置のようなアンテナである。

警戒用のレーダーと射撃管制用のレーダーの違い

では、警戒用のレーダーと射撃管制用のレーダーの違いは何だろうか。
ここから説明する内容は、最新の電子兵装には当てはまらないこともあるが、1970年代の兵器環境で説明する方がレーダーの違いを説明しやすいので、こんな流れの中でアンテナが2種類になっているのだなと理解して欲しい。

まず見た目で、警戒用のレーダーアンテナは大きく、イージス艦以外の警戒用レーダーアンテナは常時回転している。対空警戒用のアンテナは水平線近くの0度の角度から天頂に近い90度近くまでをカバーするために、広い上下角からの電波を受信できるようにおわん型(パラボラという)になっている。むらさめ級はフェーズドアレイ・レーダーなので、平面状になっている。電波は縦長に収束された形で発信される。つまり、電波は、下は水面近く、上は70度くらいの角度までの縦にした扇のような形でアンテナから出る。
これだと、左右が見えないので、アンテナ自体を回すことで全周を警戒する。先ほどの扇の例で言えば、狂言師のように、縦に構えた扇を、脚を軸に体ごと回転させる具合である。映画でよく見るレーダーのスコープが円状になっていて、直線が回転して目標が点で表示されるのは、この原理によるもので、上から見ると、まさに直線が回転しているようになっている。反射して戻った電波の上下角はパラボラ受信部で測定し、左右の方位はその時のアンテナの方向によって推定できる。
単純に言えば、探知される側は、一定時間ごと照射されるレーダーの回転のタイミングを計算すれば、警戒レーダーだと分かる。アンテナの回転速度のタイミングで電波を受けるからだ。あまり早く回転すると、電波が反射して返ってくる前に向きが変わって受信できなくなるので、回転のスピードはどんなアンテナも1分あたり10回転から数十回転である。次の射撃管制レーダーのパルスに比べると圧倒的に長い間隔になる。

逆に、射撃管制用レーダーは、ミサイルを目標へ誘導するために使われてきた。
ひと昔前のミサイルはレーダーライディング方式と言って、目標に発射母艦から細く集束したレーダーのビームを当てて、ミサイルはそのレーダー波に沿って進み、近接してからは目標からのレーダー反射を受信してその方向に向かい、電波で距離を確認して爆発する。
つまり、射撃管制用のレーダーは目標に常にレーダー波を向けていなければならないので、上下左右に動ける基台に載せて、割と精密なサーボモーターで目標との相対位置に合わせて向きを調整する。例えば、まっすぐ向かってくるような目標に対しては、ずっと同じ方向を向いたままで、艦を横切るような目標に対しては角度を変えつつ、回転していく。
これを、探知される方からすると、ミサイルを誘導している限り常に電波が照射されていることになり、先の警戒レーダーとは大きく違う点になる。
さらに、射撃管制用のレーダーは測距という機能も持っていることが多い。火砲の誘導では相手との距離を考慮しないと、着弾時の目標位置を推測できないためだ。レーダーで距離を測る場合、自分で出した電波が目標にあたり、それが反射して、また自分に戻ってくるまでの距離で測る。
この測距を行うときに大事なことは、反射して戻ってきた電波がいつ出した電波なのか識別しなければならないということだ。漫然と、ずっと同じ電波を出していたのでは、戻ってきた電波がいつのものか分からず、その時間も分からない。そこで、測距能力のあるレーダーの電波の出し方は一定の測距用のパルス(断続的な電波)を発信し、それが返ってくるまでの時間を図る。ずっと発信するのではなく、時々出すことで受信する信号を見分けるのだ。

携帯電話の電波と同じく、軍事用レーダーも使う周波数帯が決まっている

さらに、レーダーが使う電波の周波数は、レーダーごとにほぼ決まっていて、国際的にもどの周波数帯を使うか決めて、敵も味方も皆さん守っている。これをやらないと、電話やTVが使えなくなるためです。
軍事用のレーダー波では、Lバンド(1Ghz)、Sバンド(3Ghz)、Xバンド(9GHz)などがよく使われているが、警戒・捜索用に使用されることの多いLバンドは波長の長さで言えば20cm程度あり、20cm以下の物体は見落とす可能性がある。逆に、Xバンドは分解能が高く、小さな物体でも捉えることができる。また、電波は高い周波数ほど機器は精密になる。遠くに届くのは低い周波数の電波なので、広範囲を遠くまで監視する必要のある監視するレーダーはLバンドなどが利用され、射撃管制用レーダーなど細かい分解能が必要で、圧縮されたパルスを送るにはXバンドなどが利用される。

今回の韓国海軍駆逐艦クァンゲト・デワン級の場合、捜索・警戒レーダーはLバンドのAN/SPS-49。射撃管制レーダーはXまたはKバンドのSTIR、なので、まったく周波数帯すら違う。ラジオで言うと、FMとAMぐらい違う(ラジオは変調方式も違う)ので、この2つを識別ミスする可能性は全くないだろう。
この時点で、韓国側の主張する、「射撃管制レーダーではなく、警戒用だった」という言い訳が嘘だと分かる。

哨戒機はレーダー波探知の専門家

海上自衛隊 P-1哨戒機 (海上自衛隊提供)
海上自衛隊 最新鋭哨戒機 P-1(海上自衛隊提供)

今回の事件では、海上自衛隊の最新の哨戒機P-1が探知しているが、航空機にも同様のECM装置が沢山ついていて、レーダー波を探知して警報を出したり、レーダー波を妨害する装置を作動させたりできる訳だ。

上の写真で機体のあちこちの突起のほとんどがレーダー波を捕らえるためのアンテナです。
P-1などの哨戒機は、もともと海中の潜水艦を探知するのが主たる目的である。
潜水艦は普段は全く電波を発信しない。探知されないためだ。だが、攻撃許可を貰うために自国政府と連絡を取るときや攻撃目標の最終確認をするために、一瞬だけ、小さなアンテナだけを浮上させて、通信や照準を行う(今は、攻撃に際して船体ごと浮上するようなことはありません)。

その一瞬の電波をとらえるために沢山のECMアンテナが装備されているのだ。
そんな、電波探知が得意な航空機なので、まかり間違って、P-1が射撃管制レーダーと警戒レーダーの電波を間違えるようなことになれば大問題である。P-3Cの運用から、P-1の装備にいたるまで、今日の海上自衛隊の対潜作戦能力は世界でも最高レベル、米海軍に匹敵し、アジアでは最強の能力を持っていると評価されているので、P-1が電波の種類の解析を間違えることは考えられない。
そもそも、電波の探知とは、単に受信できるだけでは役に立たない。今の世の中、電波はいたるところに飛んでいて、戦時でなくてもあらゆる周波数に電波は満ちている。戦時になれば、これに、相手の意図的な妨害電波が加わるのだ。
それらの沢山の電波の中から、特定の電波を拾い出して解析し、発信元と意図を分析するのが電波の探知で、ECM装置の目的なのだ。だから、この装置がどの電波なのか分からないということは、あり得ないことだ。

韓国海軍クァンゲト・デワン級について

韓国海軍 クァンゲトデワン級駆逐艦
韓国海軍 クァンゲトデワン級駆逐艦 韓国海軍初の本格的外洋作戦用駆逐艦

性能諸元

性能諸元
排水量 基準:3,200トン
満載:3,900トン
全長 135.4 m
全幅 14.2 m
吃水 4.2 m
機関 CODOG方式
ディーゼルエンジン(5,140 bhp) 2基
ガスタービンエンジン(29,500shp) 2基
可変ピッチ・プロペラ 2軸
速力 30ノット
航続距離 海里 (18kt巡航時)
乗員 士官15名+曹士170名
兵装 54口径127mm単装速射砲 1基
ゴールキーパー 30mmCIWS 2基
Mk.48 mod.2 VLS シースパロー短SAM 1基
SSM
4連装発射筒
2基
324mm3連装短魚雷発射管 2基
艦載機 哨戒ヘリコプター 1機
C4I リンク11
KDCOM-I戦術情報処理装置
レーダー AN/SPS-49(v)5 早期警戒用 1基
MW-08 目標捕捉用 1基
SPS-95K 対水上捜索用 1基
STIR-180 射撃指揮用 2基
ソナー DSQS-21BZ 艦底装備式 1基
SQR-220K 曳航式 1基
対抗手段 APECS-II/AR-700 電波探知妨害装置
デコイ発射機 4基
デコイ 1式

クァンゲト・デワン級 同盟国の協力の賜物

韓国海軍クァンゲト・デワン級は漢字表記では「広開土大王級」と書き、おそらく韓国の歴史上の偉人、推測だが、日本軍と勇敢に戦った英雄だろう。
この駆逐艦は1990年代に登場するようになり、その後イージス艦を装備するようになるまで、日米に比べ弱小だった海軍を相応に強化する道のりの初めに現れた新鋭艦であった。
なかなかに現代的な船型で、造船業では日本に匹敵する韓国の実力を感じた艦船だった。
しかし、この船を完全に韓国製というのは難しい。
兵装関連を中心に、電装関連、CICのソフトなども海外の定評のある機器をうまく組み合わせた艦船と言えよう
そのように、西側各国のスタンダード的な兵装で艤装しているので、日本からすれば性能に謎な部分はほとんどないだろう。
電子兵装の主な部分は英国・米国製で警戒・捜索レーダーはAN/SPS-49、問題の射撃管制レーダーはいずれもオランダ製SMARTとSTIRという二つがあるが、今回問題になっている主役はSTIR射撃管制レーダーだ。

STIR射撃管制レーダー
STIR射撃管制レーダー
STIR射撃管制レーダー オランダ製

周波数:Xバンド
パルス幅:0.29 マイクロ秒
パルス繰返数:1,800 / 3,600 pps
送信尖頭電力:220 kW(Xバンド)

一方

警戒・捜索レーダーAN/SPS-49
AN/SPS-49 対空警戒捜索レーダー
AN/SPS-49 対空警戒捜索レーダー 米国が開発した対空レーダー

周波数:Lバンド(851-942MHz)
パルス幅:(a) 125マイクロ秒(パルス圧縮前)(b) 2マイクロ秒
パルス繰返数:(a) 280pps(b) 800-1,000pps
送信尖頭電力:360kW 平均13kW
ビーム幅:横3.3度×縦11度
走査速度:6または12rpm
方位角:全周無制限
仰俯角:20度

これだけ違っていれば、間違えるはずがない。
アンテナにカメラが付いていようとなかろうと、射撃管制レーダーでの照射は、する方も受ける方も明確に判別可能で、すべての行動はそれぞれのログとして記録されている。
今回、海上自衛隊は相手が否定することを前提に公表しているので、韓国海軍が射撃管制レーダーの照射をしたことは間違いないだろう。

射撃管制レーダー照射はいけないこと?

では、そもそも、射撃管制用レーダーの照射はいけないことなのだろうか。
もちろん、レーダーの照射だけでは何ら被害を受けることはない。レーダーの照射は、あくまでミサイルを誘導するためのものだからだ。
しかし、レーダーの照射を受ける航空機側からすると、射撃管制用レーダー照射の時点で相手を攻撃しないと、攻撃する機会を失うし、回避行動を行う最後のチャンスになる。本当に相手が攻撃する意図を持っているなら、この時点で、現場の指揮官は自動的に反撃しても良いことになる。

艦船が航空機を攻撃する前のフロー

なぜ射撃管制レーダーの照射が最後の反撃のチャンスになるのか、攻撃に際してのフローで説明しよう。

1.警戒・捜索

まず、すべての艦船は警戒用のレーダーを作動させ、自艦の周りの航空機を監視している。
航空機には民間機や味方機もあるので、すべてが脅威になるわけではない。多数の目標を同時に監視しつつ、その探知した目標が脅威になるかどうか、常に分析しているのだ。

2.発見

そして、味方でもなく、民間機でもない航空機を見つけると、それをマークして、レーダー上で注目していく。この時点では相手が誰かは未確認である。
最近のレーダーであれば、同じ監視レーダーでも、特定の方向や目標に対して、より精密な監視を行うモードもある。ドップラーレーダーや高性能のレーダーなら速度やおよその大きさなども分かる。

3.識別

敵味方識別装置などを使って、相手の識別を行う。
目標が接近したり、その目標からの特異な電波を受信したりした場合は、攻撃される可能性があるので、相手機の分析を行い、攻撃範囲や兵装を見極め、意図が何か推定しつつ、平時であれば交信等で確認する。
相手が攻撃の準備をしているかどうかは、まさに射撃管制レーダーの照射などの兆候をECMやカメラなどで監視するのだ。

今回のように、相手国領土に近接した場所に進出していれば、相手の哨戒機が飛んでくるのは当たり前の事なので、通信をしなくても、意図は明瞭だろう。

4.目標追尾

もし急接近をしたり、相手の射撃管制レーダーの照射を受けたり、攻撃の命令があった場合には、目標を選定して、攻撃準備のための追尾を開始する。
この時に、射撃管制レーダーが作動し、レーダー照射を開始する。
今回の事件での射撃管制レーダーの照射とは、まさにこのタイミングである。

5.攻撃準備

射撃管制レーダーの照射をすると、目標もそれを探知し、回避や反撃の態勢に移るので、ここからの反応速度は重要である。出来るだけ素早くミサイルを準備して、ミサイルのロケットモーターやセンサー類が起動すれば、直ちに発射する。
目標を正しく追尾するには、コンピューターが他のレーダー反応と追尾する目標の反応だけを区別しなければならないため、数秒の時間は必要だ。
また、実際の攻撃までに、必ず敵味方の識別信号を送り、確実に相手からの信号を受け取っていないことを確認しなければならない。敵味方識別信号は、正しく返答信号が無い場合に、味方ではないと判断する。

6.攻撃

攻撃することが分かっている場合、実際に相手に投射する兵器の準備は前もって行われている。射撃管制システムによる目標の追尾は、警戒システムと統合されているので、警戒レーダーでの情報は自動的に、追尾する射撃管制装置に送られて、目標との距離や速度、種類によって攻撃兵器が選ばれる。今回の事件のように、お互いに見えるような距離の航空機が相手の場合、主砲やミサイルが使用可能だ。
兵器発射の最後の確認が取れれば兵器を発射する。目標までの誘導は、射撃管制レーダーが動作してロックオンされている場合、すべて自動で行われるので、発射後に人が関与するところはほとんどない。

このように書くと、攻撃までのフローが複雑に見えるが、最新の駆逐艦などではそのほとんどが自動化され、人が判断するのは、4番目の攻撃態勢に入るかどうか、最終の兵器発射の確認ぐらいで、識別以後の処理は数秒から十数秒以内で完了する。

射撃管制レーダー照射は最後の防御の機会

今回の事件で問題になっているフローは、4番の目標の追尾を開始するところだ。
攻撃を受ける哨戒機側からすると、主砲やミサイルを近距離で避けるのはほとんど不可能なので、攻撃を回避・防御するなら4番目の追尾を受けるところまでに行うことになる。
相手の射撃管制レーダーが作動しているなら、確実に発見されているので、航空機の場合隠れることは不可能。射撃管制レーダーの誘導電波をECMやチャフで妨害しつつ、第2撃以後の為に反撃の態勢をとる。P-1のような哨戒機の場合、サイズも大きく、それほどの運動性もないので、出来る反撃は電子的な対抗手段のみと言える。また、対艦ミサイルは装備可能だが、P-1の場合、実運用の時にはほとんど装備していない。実戦においても、哨戒機が敵の水上艦艇に身をさらすことは非常に危険なことなので、自らは主に捜索・警戒に努め、発見すればその情報を味方の艦船や戦闘機に送り、ミサイルの発射はそれらにゆだねるのが理想だろう。つまり、P-1は水上艦船や戦闘機に対する反撃能力はほとんど無い。

ここで行う電子的な反撃というのは最新の軍事技術そのもので、どれだけ相手の電子機器の情報を持っているかが勝負になる。
例えば、今回のような近距離の場合、射撃管制レーダーの電波を妨害することは難しいので、次に発射されるミサイルの誘導電波を妨害したりする。それには、相手の兵器の種類を特定し、事前にその誘導電波の周波数を知っていなければならない。妨害を開始した場合、その妨害電波そのものを知ることで相手のECM(電子的対抗手段、電波妨害などのこと)能力を推察できる。
冷戦期には、米ソはお互いに相手のミサイル誘導電波のデータを収集するために、訓練やテストしているそばにアンテナをいっぱいつけた艦船や航空機を派遣し電波情報を収集しまくった。訓練でミサイルを発射する場合には、わざと、とっておきの誘導方法だけ使わずに訓練するなどの騙しあいが繰り広げられた。

SSNヤーセン級潜水艦
冷戦期に水中で激闘を繰り広げたロシア海軍 写真は冷戦後のSSNヤーセン級潜水艦

水上艦艇や航空機なら相手が見えるし、どこの国の所属かもすぐに分かるし証拠も残る。しかし、これが水中戦の場合、潜水艦同士では最後まで相手が誰かは特定できない。ほぼ間違いない程度まで推察できるだけだ。探知されずに接近するのが潜水艦の仕事なので、自分から積極的に何かを発信することはほとんど無いが、魚雷を発射するには、最後に敵味方識別と正確な測定が必要で、その時にだけアクティブソナーを発信する(今は探知にもアクティブソナーを使いまくる)。潜水艦乗りはこれを「ピンを撃つ」というが、もし、探知できなかった相手から突如ピンを撃たれたら、実戦では敗北を意味するので、たまに米ソの潜水艦がこれをやっていた。これをやりすぎて衝突して沈んだ潜水艦もあるほどだ。潜水艦は相手が見えないので、お互いが探知されずに接近しすぎて、意外と近くにいた相手に衝突したのだ。こういうことが頻発したので、米ソは平時にはやってはいけない行為の規定を定めた。
ちなみに、この米ソ海軍の規定には射撃管制レーダー照射は含まれていない。主に潜水艦に関する行動を想定していたからと思われる。
ソ連は演習に際しても米空母や北海道の防空基地に攻撃を想定した接近を繰り返し、相手の反応を見るために目標をずらしてミサイルを発射するような訓練もしばしば行っていた。発射したミサイルへの妨害方法などのデータ収集も目的としていた。日米もこの時のミサイル誘導などの電波を収集して、ECMなどを改良していった。
日本も、米国もこれを即応訓練の一環として対応し、特別これだけに抗議することはなかった。当たり前すぎて抗議するのもあほらしいと思ったのだろう。

このように、下手に電波妨害などの防御手段を使えば、相手に手の内をさらすことになるのだ。出来れば、P-1側はやりたくないだろう。現在、世界でも米軍P-8と並ぶ最新鋭の哨戒機だからだ。
一方、韓国側駆逐艦、クァンゲト・デワン級は西側の知れ渡った(積極的に輸出している)兵器を使用しているために、レーダーの性能やミサイルの誘導方式なども、ほぼ解析済みだ。海上自衛隊にすれば、あえて収集する必要のない相手ともいえる。それでも、警報装置の実戦テストにはなるし、乗員の訓練には役立つだろう。

例えば、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した時に、日本近海に着弾したミサイルは警戒中のイージス艦により迎撃可能な範囲を飛行した事例もあるが、着弾が海上である限り迎撃はするつもりは無かったと思われる。なぜなら、もし迎撃に数発のミサイルを使い、何発かが外れた場合、迎撃の性能が知れてしまうからだ。

弾道弾迎撃ミサイルSM-3を発射する海上自衛隊イージス護衛艦
弾道弾迎撃ミサイルSM-3を発射する海上自衛隊イージス護衛艦

北朝鮮の弾道ミサイル発射の時に、ロシアの軍用機や艦船がいっぱい活動するのは、日米の開発する弾道弾迎撃システムの能力を測るためである。ロシアはもちろん、自国の核弾道ミサイルの抑止力の評価に利用するのである。

ここまで考えると、相手に各種能力を知られるリスクも多く、敵性国が相手でなければ、射撃管制レーダーを使わないのが普通であるし、仮想敵国が相手の場合は、相応のリスクを受け入れたうえで実施しなければならない行為だと言える。

自衛隊の体質

この事件でも露呈するのは、現在の自衛隊体質だ。一言で言えば姑息。
空母やステルス艦載戦闘機の装備、長距離対地ミサイルの装備、潜水艦の増勢など、明らかにこれまでと違う自衛隊になりつつある。小型の米軍のようになろうとしているのに、対外的には未だに専守防衛を口にする。
米国は頼りにならないし、中国軍の増強は明らかだから、今後、日本は独自に敵国に反撃する軍事力を整備しますと、はっきり言って、それを説明すべきだ。
それをやると、交渉能力に劣る自衛隊は外国との折衝は出来ないので、自分は言いたくないのだ。それを世論や安倍政権の軍事派閥など、誰か他の人に行ってもらうようにあれこれ画策している。
軍事力を持つ組織とは思えないほど肝がないのが自衛隊。

海上自衛隊いずも型護衛艦
海上自衛隊いずも型護衛艦 空母化すると発表(海上自衛隊提供)

いずも型護衛艦空母化に関する進め方などはその典型で、徐々に、小出しにしつつ、いつの間にか既成事実化していく。そこには、空母が何のために必要かと言う目的は忘れられ、いずも型を空母化すること自体が目的化している。
空母戦力には24時間どんなときにも艦載機を離発着可能なパイロットが必要で、その訓練には、常時離発着の訓練を行わなければならないのに、
「普段、艦載機は空母に載せず、緊急時にだけ載せて運用します」
なんて、不可能な言い訳をしている。急に空母に着艦できるパイロットなんていない。

こんな言い訳をする政府・自衛隊にとって、北朝鮮の漁船は格好の材料だった。だから、その漁船への放水などを公表していたが、そこへ韓国がやってくれたものだから、これを利用しようとすぐに考えただろう。特に、安倍政権には世論操作が政権の目標と思っている輩が多いので、これはメディアが飛びつくとすぐに思いついただろう。
この姑息な手段に毎回騙されるメディアと国民のなんと多いことか、、ふぅ。

日韓のその後のやり取りを聞いていて推察できることは、

韓国は、前回の日中での射撃管制レーダー照射の事例を踏まえて行動しているということ。この時、中国は公式には射撃管制レーダー照射を認めず、軍部の一部で認めた。日本は抗議を繰り返したが、謝罪などはないまま放置している。
そして、表立っては言えない、日本の北朝鮮への強硬姿勢への非難を、海軍力がほぼ皆無である北朝鮮の漁船の保護というやり方で行っているのだろう。北朝鮮への親和的なメッセージにもなる。
日本は、防衛大綱を決定したばかりで、専守防衛の範囲を超えてフリーハンドの軍事力を持とうとしている最中だ。海上自衛隊にすれば、初めての艦載戦闘機や空母を手にする段階だ。日本周辺海域での脅威を伝えるには最高のタイミングだったと言えよう。

ここでの日本の政権の態度には、軍事的なアドバンテージを目指すためには、同盟国の韓国をないがしろにしても良いとする意志が読み取れる。
朝鮮半島の統一はいずれなされることで、それを先延ばしにしてもしょうがない。また北朝鮮は絶対に核兵器を放棄しない。半島統一後には廃棄する可能性はあるかもしれない。中国は統一した韓国が核兵器を持つことを許さないし、米国も日本も同じなので、韓国の国境を脅かさないことで核の放棄を迫るだろう。ここに北朝鮮金政権の存亡は問題にされない。朝鮮半島の経済面での交流がなし崩し的に進めば、北朝鮮の政権は一気に権力を失う。金政権は、今、対外的な軍事力を国内統治に振り向け、当分その権力の座を守ることだろう。
日本は韓国や中国とのあらたな関係性を模索しなければならないようになってきている。

トランプ政権の米国第一主義は日本にとっては将来の世界の姿の予兆であり教師である。安全保障を軍事力だけで維持するのはとてもリスクが大きくコストパフォーマンスが悪い。今の米国とイスラエルの姿を見れば一目瞭然だろう。ほどほどの軍事力を持ち、常に世界の情勢に注意しつつ、一度に複数の国と対立しないように外交手段を駆使し、先に情報を得て、予測し先手で動くことが一番重要なのだ。幸い、日本は海に囲まれ、防衛にはとても優位な地勢にある。しょうもない挑発に必死になるのではなく、今、韓国政権で最も重要な北朝鮮との交渉に関して、プレゼンスを与えることが必要だ。いつも第2次大戦中の責任問題で相手に先手を取られてしまうのは、日本の外交の弱点になっている。本気で和解するには、相手国、国民の理解が絶対に必要だろう。領土問題でかたくなになるのは愚策だ。実際には手の内にない北方領土の主権を絶対条件にするなど愚の骨頂だ。名を捨て実を取る覚悟が無ければ外交交渉などやるだけ無駄。
実務的に柔軟に対応することも安全保障にはとても重要なことを忘れないで欲しい。

今回の事態は完全に韓国海軍の失態だが、この事件を単なる文句の言い合いにしてしまう現安倍政権の外交には全く先見の明がないと言えよう。素人と一緒だ。海上自衛隊の密かな野望にも気づかず、一時的な感情論で動いている。
何度も言うように、韓国にとって現在最重要の外交課題は北朝鮮であり、日本政府はこの軍事的なインシデントを理由に韓国との軍事協定で実利を得ることも出来たはずだ。朝鮮半島有事の際に邦人保護のために韓国に自衛隊を派遣しても良いとか、対馬海峡での潜水艦航行に関する協定とか、もちろん海上や空域で互いの艦船や航空機が遭遇した場合の規定も含まれる。さらに、徴用工賠償裁判もずっと審議中だったのだから、外交を多面的に見ることのできる人なら、多大な外交的利益を引き出せたに違いない。その為の、最高のチャンスを安倍政権は自らの支持率アップ、しかもたった数%アップだけに使ってしまった。彼の愛国心の無さと利己的な姿勢にはもう飽き飽きしています。彼ら、安倍とその取り巻きのために、日本は今後何十年の外交的利益をみすみす失っているのです。

 

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