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現代の偵察機

無人偵察機と広域早期警戒機の時代

航空自衛隊E-767
浜松基地へ帰投するE-767早期警戒機

近く日本も無人偵察機RQ-8グローバルホークを採用するらしい(2015年時点 計画中)。

航空偵察の世界は、軍事力の情報化に伴って大激変している。

無人偵察の発達によって、有人の航空偵察機は減ってきている。特に有人の戦術偵察機はほとんどなくなってきている。

 

■戦術偵察とは

RF-4
戦術偵察機RF-4ファントム

軍用機は初めに偵察機として使用された。第一次大戦のことで、塹壕戦での相手の兵士、火砲、補給線などの位置を確かめて作戦に用いるためだった。軍用機の初めから使われたこの偵察が戦術偵察である。現時点での敵軍の配置や行動を探り、作戦に役立てる偵察である。第二次大戦時に大規模な航空爆撃が可能になると、爆撃目標の選定や爆撃後の効果判定にも偵察機が使用されるようになり、このような偵察も戦術偵察の範疇である。

 

■戦略偵察とは

U-2
ロッキードU-2偵察機

第二次大戦後、冷戦期に入ると、核兵器と弾道ミサイルが登場し、敵国の国力そのものが攻撃対象となると、兵力の具体的な配備以外に、産業資産、交通網、指揮通信網、発電所、石油精製施設を調べることが必要になった。また、相手国の核兵器関連施設、弾道ミサイル基地なども偵察する必要があった。これらは相手国の奥深くにあり、当然、相手領土内にある。実際には戦争状態にない米ソ両国は、相手国を偵察するために高高度を高速で飛行する偵察機を開発した。U-2やSR-71、Mig-25などだ
MIG25
ソ連は高速のMIG-25を偵察機に使用した

これらを戦略偵察機と呼び、主に核攻撃目標に関する偵察を行うものを戦略偵察と分類した。

 

■SR-71から偵察衛星へ

戦略偵察はその後、人工衛星によって行われるようになり、戦略偵察機は次第に使われなくなった。

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キーホール偵察衛星

これは、U-2の撃墜などに見られるように、対空ミサイルの発達により敵国領内をどんなに高く速く飛んでも撃墜される可能性が高くなってきたことが直接のきっかけだ。航空機による戦略偵察は米国が主に行っていた。ロッキードのケリー・ジョンソン率いるスカンクワークはこのための専用機を開発し、その最終形態がSR-71ブラックバードであった。ケリー・ジョンソンはこの機体は決して撃墜されないと豪語し、事実、ソ連領内など敵性国の領土内を何度も飛行しながら1機も撃墜されていない。
Lockheed_SR-71_Blackbird
ロッキードSR-71世界最速の戦略偵察機

高度25000m以上を速度3000km/h以上で飛行するので、速度M4、射程30km程度のSA-2ガイドライン対空ミサイルなら物理的な撃墜可能時間が1分程度しかなく、進路をあらかじめ予測して発射しないと接近することすらできない。おそらく、パトリオットやS-300のような弾道弾迎撃性能をもつミサイルでなければ迎撃不能であった。

弾幕のようにミサイルを発射しておけば撃墜可能だが、平時にこの方法を用いることは難しい。また、偵察機は半径50km以上を偵察可能で、領空の端をかするように飛ぶため、実際に領空内に入っているのは数分間だけだ。この短い時間に、米国の航空機を攻撃する政治判断して命令し、ミサイルを発射するのは難しかった。

このように、SR-71は戦略偵察機として十分な性能を誇っていたが、宇宙飛行にも似たミッションの困難さや通常の航空機と全く異なるメンテナンスが必要なことがマイナス要因となり、偵察衛星に搭載するセンサーの発達によって、次第に偵察衛星に取って代わられることになった。

しかし、米国は、この戦略偵察機を完全に偵察衛星に置き換えることは出来なかった。偵察衛星は低高度の太陽同期軌道を取り、地球上の全地点を通過するようになっているが、その周期は一定で、次に衛星が上空に来る時間は予測可能だ。もし移動式の弾道ミサイルならその時間だけ隠しておけば移動を感知されない。また、常時地上を監視するには何機もの衛星を飛ばしておくことが必要で、米国でも高精度の情報を常時得ることは出来なかった。
すなわち、非常時に思いがけもしない場所を調べる必要が生じたときのためにSR-71やU-2が必要だったのだ。

 

■無人偵察機の登場

実際にU-2やSR-71の運用にとどめを刺したのは偵察衛星でなく、無人偵察機だった。

RQ-4GlobalHawk
RQ-4 GlobalHawk グローバルホーク

偵察用のセンサー、特に赤外線カメラと合成開口レーダーの発達によって、昼夜、天候を問わず上空から地上を監視できるようになったことは偵察衛星の性能を高めた。衛星高度から小さな車まで識別できるようになった。これだけの性能を持つと、逆に、目標の行動を監視することを求めるようになり、移動や時間的な変化を監視するのに偵察衛星の時間的な制約が大きなネックとなった。

一方、U-2やSR-71の設計に使われたステルス技術の発達によって、航空機がレーダーに感知されにくくなると。周期的に衛星軌道をまわる衛星より航空機の方が相手に察知されにくく有利になってきた。

さらに、デジタル通信技術と飛行を制御するコンピュータ技術の発達で、無人航空機に偵察センサーを搭載し、常時目標上空を飛行して監視できるようになった。

つまり、無人偵察機は、偵察機の可用性と衛星の安定性を持っているのだ。当面、全地球的に監視するには、燃料無用で飛べる衛星が用いられるだろうが、無人偵察機は今後も利用は広がるだろう。

 

■戦術偵察機の終焉

無人偵察機では人的な損害はなく、飛行時間も長い、デジタル衛星通信により地球の反対側にいてもその情報を受け取れる。

無人偵察機は高高度を飛行し、広範囲を偵察するグローバルホークのようなタイプと、低高度を短時間飛行し、主に小さな目標の現在時の行動を偵察するMQ-1プレデターのようなタイプがある。かつての戦略偵察機と戦術偵察機のような関係だ。

MQ-1Predator
MQ-1プレデター 主に低空でTVカメラで偵察

各種の無人偵察機によって、敵国のはるか後方の核兵器開発施設から、建物裏の隠れた兵士まで偵察できるようになったために、元来、危険な低高度を敵に接近して飛行しなければならない戦術偵察機の需要は少なくなってきている。

さらに、センサー類の発達・小型化で、通常の航空機にポットタイプの偵察装備を付けるだけで偵察可能になったので、専用の有人偵察機や専用の飛行隊の必要性は減っている。ミリ波レーダーなどによってヘリコプターから瞬時に広域を偵察できるようになったことも、戦術偵察機の活躍の場を少なくしている。

しかし、無人偵察機の運用には特別の指令センターや情報解析システムが必要で、情報通信衛星網と安定したGPS衛星網が必須である。これらは軍用でなくても有用なので、全体の初期コストは莫大であるが整備されている。これは米国に独占されているので、米国以外の国は独立した偵察能力の為には今後も有人の偵察機を運用しなければならない。

 

■広域早期警戒機

湾岸戦争は正規軍同士が地上戦を行った最後の戦争だ。この戦争はまだ、冷戦時代の戦術が残り、米軍や同盟軍も情報化の度合いは小さかった。例えば、誘導爆弾の使用率は、

投下兵器数・量 誘導爆弾の使用割合
ベトナム戦争 200万トン以上(400万発) 1%未満
湾岸戦争 22万7648発 7.7%
コソボ戦争 2万3644発 29.8%
アフガン戦争 1万7459発 60.4%

※Northrop Grumman Future War

湾岸戦争では7%程度しかない、アフガン戦争では60%に達している。軍隊の情報化はこの投下誘導爆弾の使用率と同様に進化していると見ていい。誘導するためにはGPS用の座標ポイントもしくはレーザーによる目標指示が必要で、それは戦場の偵察情報によって得られるからだ。情報量が多いほど誘導爆弾の使用機会が増え、その効果は上がる。

話を戻して、情報化度合いの小さかった湾岸戦争で、実験中にもかかわらず急遽呼び出され、勝利に大きく貢献した航空機がE-8 Joint Stars(ジョイントスターズ)だ。

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E-8ジョイントスターズ 地上を広域で監視する
中古のボーイング707の胴体下部に対地監視用側方レーダーAN/APY-3を搭載している。このレーダーはドップラー・モードで使用するとイラク・サウジアラビア国境全域の地上の移動目標をできる。これによって、イラク軍が国道沿いに移動する様子が丸見えになり、道路に立ち往生するうち、次々と破壊され、道路にはイラク軍車両の残骸がえんえんと続くことになった。
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クウェート国内から撤退するイラク軍をレーダーがとらえた様子

このような機体がある場合、地上での大規模な作戦移動は意味をなさない。アンフェアと言って良いほどだ。湾岸戦争地上作戦での作戦立案をほめる人がいるが、わが方は全く偵察されず、相手方のみ動きが丸見えなのだから、誰であっても可能な作戦であった。逆に、

遭遇戦で敵の先制攻撃を受けたり、カフジ油田への奇襲を未然に察知できなかったり、用心深さに欠ける用兵だった。

それでも米軍と同盟軍が圧勝したのは、軍隊の情報化が決定的な能力差になることの実証であり、米軍が進めてきた情報革命戦略が正しかったことを証明している。

この時に実験的に使用されたE-8はその後正式採用され、改良も続き、現在では、車両の区別ができるようになり、地上偵察の重要な一員になっている。

現代では、合成開口レーダーの実用化、高性能化によって、広大な戦場全体を1機で監視できるようになり、このような機体は各国で実用化されている。E-8のような大きな機体だけでなく、スウェーデンのエリアイFSR-890のような小型の機体にも搭載可能。

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レイセオン社のSLARを搭載したサーブ機

海上哨戒機は以前から側方監視レーダーSLARを搭載していたが、海上のようなまっ平らな上の目標のみ探知可能であった。波のある荒れた海面では性能も限られていたが、レーダーと情報処理能力の向上で、今は波の高い海で潜水艦の潜望鏡を探知することも可能になっている。

海上哨戒機のSLARと地上監視用のそれは同じもので、最新の海上哨戒機は地上も監視可能である。しかし、E-8があえてJoint-Starsと統合を謳ったように、軍隊はいまだ陸軍、海軍、空軍の垣根が高く、運用・技術開発面で統合が難しく、海軍の哨戒機と、その他地上監視機を全部一緒にすることはなさそうだ。

E-8や空域を監視する早期警戒機E-3、E-767などと、リベットジョイントなどの通信監視機や海上哨戒機などを駆使することで、今や戦場は常時監視できるようになっているのだ。


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海上自衛隊P-3C


RC-135

RC-135リベットジョイント各種通信を傍受するSIGINT偵察機

さらに詳細な敵勢力地域偵察を行う無人機を導入すれば、戦場に隠れる場所はなくなるだろう。

離れてももはや隠れられない状況から、今後、ステルス性はより重要になってくる。E-8やE-3は戦争を決定づける重要目標なので、ステルス戦闘機F-22やF-35の最初の目標はこれら戦場監視機である。

 

■RQ-4 グローバルホーク

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グローバルホークの透視図

前にある大きなコクピットのようなふくらみ内には衛星との通信用アンテナがあり、偵察センサー類はすべて胴体下部に内蔵されている。

高度なセンサーや燃料を大量に搭載するために相当に大型である。

乗員が不要なので機体上面が空力的に滑らかで、エンジンの空気取り入れ口も機体上部にある。これはステルス性にも有利である。

高アスペクト比の、長い主翼を持ち、全体形はU-2を連想させる。飛行形態は似ているので、当然と言えば当然。

製造はノースロップ・グラマン社による。しかし、センサー類をはじめ、現代の兵器らしく、レイセオンなど主要軍事メーカー統合事業化している。

グローバルホークは1万メートルを超える高高度を飛行し、広域を監視するための偵察機である。自衛隊が運用するのも、北朝鮮や中国・ロシア敵国領域を監視するためと考えられる。高高度であれば、敵領海へ侵入しなくても偵察が可能。

搭載するセンサー類も合成開口レーダーを主にしている。合成開口レーダーは移動しながらレーダー波を照射することで、時間軸で情報を統合し、理論的に広大なレーダーと同じ能力を持つ。レーダーの解像度は最高度の軍事機密であるが、おそらく、1m程度の解像度を有し、自動車などを区別できると思われる。

他には赤外線カメラなどのセンサーも搭載し、弾道ミサイルの発射や核関連施設も監視する能力を持っていると思われる。

米海軍が採用している機体もあり、海上哨戒にも使用可能。当然ドップラーレーダー的な移動目標を監視する能力も有していると思われる。

近年はSIGINT、電子偵察任務にも使用され。レーダー波や通信波の傍受も行っている。

エンジンはロールスロイス製QE3007ターボファンエンジン。ペイロードは約900kg。最大離陸重量は12t。

全幅は35mもあり、戦闘機F-15の2倍もある。

GlobalHawk
RQ-4整備中の人と比べるとその大きさがわかる
この長い主翼のおかげで航続距離は1万海里を超える。低速で巡航するので、同一地域を12時間程度監視できるのではないかと思われる。今後、無人機に空中給油能力などが付与されれば、本当に24時間自動的に滞空して、常時世界を監視できるようになるだろう。

 

■RQ-1プレデター/MQ-9リーパー

MQ-1_Predator
プレデターはミサイルを搭載し攻撃もできる偵察機

グローバルホークより小型の偵察機で、戦術偵察用の機体といえる(前述したように、実際にはそのような区分はなくなった)。グローバルホークと似たような形態だが、全幅14.8m、全長8.2mとずっと小さい。

より低高度(上昇限度は7620m)で運用されるので、センサーも光学センサーが多く、赤外線TVカメラがその代表。リアルタイムで戦場の状況を伝えることが出来るので、作戦上極めて有意である。

また、訓練されていない分析官でない、部隊長や政治家でもカメラ映像は見てすぐに理解できるので、まさにリアルタイムに政治的な決断を伴った作戦が可能であり、このことから、偵察、監視、攻撃、評価とプレデターが多用途化していくことになり、それは制式名にも反映し、MQ-9と多用途を示す「M」がつき、カメラからミサイルまで装備する無人機となった。人間を殺すことが出来る、初めての自律行動可能な無人機だ。映画ターミネーターの世界はすでに到来しているのだ。

イラクでは、スティンガーを搭載したプレデターがMIG-25と交戦し撃墜された。近い将来、無人戦闘機同士の空中戦も行われるようになり、それはあらかじめプログラムした交戦アルゴリズムを使用することになるだろう。今のように、ミサイル発射に人間を介在させると反応が遅れ、完全自律で動作する相手機に負けてしまうからだ。そして、索敵、識別、攻撃までを自動的に実行する無人兵器と発展していくのだ。

プレデターに代表されるような無人機の攻撃は、対テロ戦争で唯一効果のある作戦と言って良い。これと、全世界の通信網を自律的に傍受・解析するシステムがタリバーンとアルカイダの行動を大きく制限しているのだ。

 

■無人機のコスト

無人機の費用は決して安くはない。RQ-4グローバルホークは機体のみで1機25億円、プレデターは1機5億円程度で、F-15の50~100億円、F-22の200億円などと比べると機体そのものは安い。有人機はパイロットを訓練するのに時間と費用がかかるが、一方で、無人機のパイロットや分析官にも専門の訓練が必要である。しかも、無人機の運用にはGPSシステムや衛星通信システムも必要で、運用センターも専用のものが必要だ。今のところ全体的な運用経費はどっこいどっこい。

決定的なのは、人的な損害が全くでないことだ。これにより、政治家は道義的なリスクを排除して戦争を行うことが可能になり、敵国にはより非人間的な戦争になる。今日の大衆民主主義での右傾的な傾向は、戦争が非現実化して、そのリスクを考えることがなくなってきたことが一つの要因。バクダッドががれきと化しても、兵士の損害が100人にも満たないのであれば、一般の米国人は戦争のリスクなど考えずに「戦争しろ」と叫ぶだろう。ベトナム戦争当時のように、誰もがその戦場に行かねばならず、身近な人が死ぬ危険があった時と同じように戦争を考えるはずがない。かつて、自らが死ぬ可能性があったにもかかわらず「戦争だ」と言った人々が、今は犠牲無しで戦争できるのだから。

テロによって自国民死んだり、敵国を占領したりするため、兵士を派遣する必要がなければ、米国人は、少し安いガソリンを確保するためにずっと戦争をしつづけることを許容するであろう。それを「平和、安全」と感じるだろう。まさに安全の為の戦争で、平和のための戦争だ。この、政治家の嘘の代表のような言葉が、実現可能になってしまった。

 

■最後に

考察の最後に、無人機から攻撃を受ける側の立場に立ってみよう。「自分たちの本当の痛みを分からせるために米国の市民を目標にテロを行う」が分かるのではないだろうか。音も姿も見えない無人機から攻撃を受けたとき、復讐はどこへ向かうだろうか。そこに戦う敵兵士がなければ、米国の市民を目標に選ぶことは、彼らにとって普通のことになるだろう。

非対称戦は、攻撃においてのみでなく、反撃の形も非対称にならざる得ないのだ。逆に考えれば、相手国民を戦争目標にしないなら、それは軍隊による戦争でなく、警察力とテロ組織との戦いなのだ。

実際には面倒でややこしい、複雑な行政統治の問題なのに、「敵国」を作り上げることで強大すぎる軍事力を投入してしまう米国の愚かさよ。これはもはや軍隊の仕事ではないのに。

戦争をコンピュータ任せにした時にどんな危険が訪れるか、たくさんのSF小説が予言している。戦争での殺戮に、何の犠牲を払わずに済むはずがない。

 

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