ウクライナ侵攻 2023年6月の情勢

ウクライナ軍の攻勢

2023年6月になって、ウクライナ軍は本格的な攻勢を開始した。

まだ、小規模な威力偵察であるが、西側の戦車や装甲車などの装備とそのための訓練を行ってきての、初めての攻勢である。これまでのNATO諸国の支援に効果があったのか、それを見極める重要な段階に来ている。

一方、ロシア軍にすれば、あらかじめ予期できた攻勢であり、それなりの準備期間もあった。前線には地雷原や塹壕線が構築され、要塞化されている。この防衛線強化にはロシア軍の軍事資源と情報戦能力が集中され、ロシア兵の士気が試される。ロシア軍にとっても、この防衛線は試金石になるだろう。

現在(2023/06/14)のところ大規模な砲兵戦が展開されていないので、ウクライナ軍はまだ様子見というところだろう。しかし、ザポリージャとドネツクの間の東南部戦区では既にレオパルド2やM2ブラッドレー戦闘兵車が投入され、激しい地上戦が展開されているようだ。

上の写真はロシア軍が公表したものだが、オープンソースの団体が場所などを特定できている。おそらく本物だ。写真からはレオパルド2が1輌、M2ブラッドレー戦闘兵車が6輌確認できる。後方に地雷原処理車輛がいて、その前方にも履帯が外れた車輛がいるので、地雷原処理中に攻撃され、周りの地雷を踏んで小隊が壊滅したのだろうと思われる。道の中央でスタックした車輛からの乗員の脱出を援護するために、他の車輛が周りを防衛したのかもしれない。撮影は無人機によるものだが、車輛の上面が攻撃されていないので、どの車輛も、濃密に配置された地雷を踏んでスタックしてしまった可能性が高い。
もし、そうであれば、ウクライナ軍の士気の高さを伺えるし、逆に、攻勢局面での工兵作戦の難しさと、それに対応しきれないウクライナ軍の弱点がうかがえる。
装備においても、優先された正面装備は西側仕様でも、工兵装備などが不足している可能性もある。車輛にカモフラージュネットなどの装備が無いのも気になる。今後も、細やかなNATO諸国の支援が必要になるだろう。

本格的な作戦は砲撃戦後

ただ、現在の状況はウクライナ軍・ロシア軍双方にとっても全力を出した戦いではない。ウクライナ軍にとっては、クリミア半島とロシア本土との連絡を絶つには、ザポリージャ南東部前線をアゾフ海に向かって突破して、約200km進出しなければならない。突破後、それだけの距離を進出するには、相当数の機甲戦力が必要で、それらは第二梯団、第三梯団として温存されており、それらこそがウクライナ軍の主力だ。

一方、ロシア軍にしても、単に、防衛線を維持するだけでは、必ず突破されていしまう。約半年間防衛線の強化に努力したとは言え、数千キロに及ぶ前線のすべてを強化することは出来ないからだ。問題は、ウクライナ軍が突破口を広げ進出してきた場合に、側面を攻撃できる機甲戦力が用意できているかが問題で、まさにその機甲戦力こそがロシア軍の戦力である。

だから、真の攻勢作戦は、相手の後方予備への砲撃戦から始まるだろう。それは、現在のところまだだ。

カホウカ水力発電所ダム破壊によるドニエプル川の氾濫の影響
おそらく、ロシア軍によって破壊されたカホウカ水力発電所ダム。このダムの破壊で有利になるのはロシア軍である。

ドニエプル川氾濫の影響が限定的と考える論調が多いが、それは間違っている。

ウクライナ軍の主攻方向がザポリージャ南東からのロシア軍東西回廊分断であっても、そこが停滞したときに、戦力を機動的に運用しての側面攻撃を行える地域は、東部戦区のバフムートなどのドネツク州方面と南部へルソン州方面などに限られるからだ。
ロシア軍にとっても、この東西回廊は絶対死守すべき地域なので、この方面に多量の防御部隊が配置されていることは間違いない。防衛線の強化も、この地域を最優先で行ってきたはずだ。

その場合、ウクライナ軍はロシア軍が待ち構えている正面に突っ込むことになるので、まさに、独ソ戦でのクルスクの戦いの再現になるだろう。いくら優秀な戦車と乗員がいても、粘り強いロシア軍の待ち構える罠にはまれば損害は大きい。

よって、ウクライナ軍は東西回廊正面が突破出来ない場合の選択肢として、東西回廊強化に周ったロシア軍の側面を突き、自国領土を奪還する作戦を想定しているはずなのだ。その場合、南部へルソン州おいて、ドニエプル川何東岸に橋頭保(本当の字は違う)を築くことは大きな戦果だ。

しかし、今のウクライナ軍には、重車輛を渡河させるような、大規模な渡河作戦に必要な橋梁装備も支援する航空戦力も不足してるため、強行渡河は不可能なので、ドニエプル川の氾濫によって、ウクライナ軍がドニエプル川を渡れる地域は限定される。ロシア軍はいくつかの橋の周辺を防衛するだけでウクライナ軍を阻めるのだ。これは非常に大きい課題である。しかも、もし東西回廊分断に成功した場合でも、オデッサ方面からの補給線はドニエプル川を渡らないといけないので、この川が氾濫しているのは大きな影響があるのだ。本来なら、多方面での少数の部隊による強襲艇などによる浸透作戦が有効だが、氾濫によってそれが困難になっている。特に航空戦力の脆弱なウクライナ軍にとって、渡河作戦は大きなネックになるだろう。

ウクライナの攻勢は成功するか
英国にてウクライナのチャレンジャー2戦車乗員を訓練。ウクライナ軍は西側の兵器体系に急速に移行している。

現時点で断定はできないが、ウクライナ軍が今回の攻勢の目標を明言していないことに注目してほしい。ウクライナ軍にとって東西回廊であろうとドネツク方面であろうと、それなりの広さの領土を奪還すれば、それは十分な戦果なのだ。ウクライナ人の士気は高く、戦争や政府への信頼も高い。一度、ウクライナへ戻った土地は、1年の占領を経てもなお、ウクライナの完全な領土に戻るであろう。そうなると、小さな町のバフムートのようにロシア軍が再占領するには多大なコストがかかる。

すなわち、ウクライナの攻勢作戦が、その領土の奪還を目標とするなら、どの方面か不明だが、成功するであろう。ただ、東西回廊の分断、例えばマリウポリやメリトポリまで進出することがゴールとするなら、現時点では、まだ難しいかもしれない。

訓練したての10個機甲旅団くらいでは、防衛線の後方200kmを進むのは非常に困難だ。しかも左右両側面を防衛しつつ進撃しなければならず、東側はロシア本土からのロシア軍、西側は氾濫した川で後方の憂いがないロシア占領軍、これらに挟まれて進撃するのは並大抵のことではない。

結局のところ、ザポリージャ南東部で砲撃戦と包囲戦で相手の後方予備を削った方が勝利するだろう。その包囲戦でロシア軍が敗北し、前線部隊の士気が喪失すれば回廊の遮断も目に見えてくるだろう。両国の兵士の士気の差がこの戦局を左右するだろう。

追記

2023/06/20

CNNのニュースではウクライナと英国当局者からの情報として、ロシア軍がへルソン州などのドニエプル川南東岸の兵力をザポーリージャ州などに移動させていると伝えている。

ザポーリージャ州へ再配備されるロシア軍部隊

https://www.cnn.co.jp/world/35205427.html

これは上で予測したように、ウクライナ軍がドニエプル川を越えての渡河侵攻作戦が行えないとロシア側が見ているからだ。ダム破壊によってもこの方面の攻勢が難しくなっているのだ。ウクライナ側は、ザポーリージャからドネツクまでの地点でのみ攻勢が可能で、ロシア軍はドニエプル川を防衛線として西側からの攻勢を気にせず防御できることになり。他方、東西両側面をさらしながら進出しなければならないウクライナ軍は、より難しい状況で作戦を行わなければならない。

単に、アゾフ海までの領土奪還を目指すより、攻勢作戦に反応したロシア軍の機甲予備兵力を叩く方が現実的な作戦だろう。おそらく、ウクライナ軍とその作戦を支援するNATO軍はそれを予測して行動しているだろう。そしてまた、ロシア軍もそれを予測している。つまり、相手の予測を上回る速度で機動して、より早く戦力を集中できた方が勝利するであろう。

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